武田所長です。様々な企業を分析することを趣味として生活しています。
第一回となる今回はツイッタラーとしても有名な木下社長( @kinoppirx78 )率いる
(株)北の達人コーポレーション
です。
安定的に成長し売上高100億円超、営業利益率20%を超える通信販売のエクセレント・カンパニーとして多くのWEBマーケターが憧れる会社です。
今回はそんな北の達人コーポレーションが上場した際に東証に提出する
「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」を読み解くところから始めましょう。
https://www.jpx.co.jp/files/tse/listing/new/b7gje6000004z6il-att/11Kitanotatsujin-1s.pdf
この分析を通じ有価証券報告書への注目ポイント、情報の読み解き方を学び、自身のビジネスにどう活かすのかの参考にして頂ければと思います。
特定商品への依存リスク:カイテキオリゴ
まずここに注目しました。北の達人は現在多くの商品を発売し分散した商品ポートフォリオになっておりますが、9期目の単一商品「カイテキオリゴ」依存率は70%以上。
現在総合型の会社もルイヴィトンのカバンやパナソニックのソケット、ソニーのウォークマンのように単一のメガヒット商品がルーツのケースは多いですね。北の達人の場合は「カイテキオリゴ」でした。
これですね。「機能性表示食品」も獲得しています。
GoogleTrendでカイテキオリゴの検索数推移を調べてみましょう。
ピークを2016年頃に迎えておりますが、上場後も長期に渡り北の達人を支え続けたロングラン製品ということが出来ます。健康食品の世界は長期生存できる製品は少なく多くが発売数ヶ月でまもなく消えていく運命にあります。製品に対するこだわりを垣間見ることが出来ますね。
LPも見てみましょう。
カイテキオリゴは腸訴求です。
現在健康食品市場はまさに腸ブーム、腸内フローラに関する研究が活発になり便通以外にも例えば精神への影響も解明され始めています。多くの栄養素が吸収される腸、今後もホット領域であることは間違いないでしょう。
ただ日本国内と言えば腸と言えば便通、女性の悩み上位項目で常に上げられるペインです。
商品は課題の解決である必要があります、カイテキオリゴはここに訴求しています。LPを見てよく勉強しましょう。
GoogleTrendを見るとこの4年程は検索数に変化がなく安定しているということは安定的にファンがついていることが伺えます。
北の達人の沿革
企業分析の際には絶対に沿革と社長・役員の経歴を見ます。
その企業が持っているDNAが分かるのです。
まず木下社長の経歴がこちら
神戸出身。大学卒業後、リクルートに就職。
5年後にリクルートを退職し、北海道に移住。
2002年に北の達人コーポレーションを設立し、現在に至る。
ここで分析を止めてはなりません。リクルートならペッパーなのか、ビューティーなのか、じゃらんなのか、アントレなのか・・・社長の経歴を徹底的に調べます。
『学生時代からマーケティングに興味があったので、大学卒業後はリクルートに入った。紙媒体の求人情報誌のころで、そこで5年間あらゆる業界に営業に行った。経済の仕組みや業界の流れが大体わかるようになってきたので、5年経って独立して起業した。ノープランで独立したものの、最初はプランナーとして仕事も順調だったが、2年目で食えなくなった。当時は、商売に対して浅はかな考えで、その時に仕事やお金がもらえれば良いと考え、お客様の満足ということをあまり頓着していなかった。それで、リピーターもなくなり、2年目には財布の中に50円しか入っていない状態。電車にも乗れず、結局廃業して肉体労働のアルバイトをしながら、もう一回事業の機会を待った』
見つけました。求人紙媒体となると当時のリクルート主力商品ですね、はたらいくなのかタウンワークなのか・・・まではわかりませんが。
過去を探るためにはGoogle検索の「期間を絞って検索」がおすすめです。普通に検索すると最近の記事が表示されてしまうので2006-2012年のように検索してみましょう。
若々しい時代を見る出来ます。
そして創業ストーリー、なんとノープランです笑。いいですね!こういうの好きです。
常々言っているのですが格好いい創業ストーリーなんて必要ありません、メディアや採用のために必要になったら後で作ればいいのです。ノープランで行きましょう、経営者は楽しい、それだけでいいのです。
ノープランで起業しなさい!
成功者のホットスポット:リョーマ
上の記事の中で興味深い記述があります。
『学生時代から起業を志していたので、当時関西にあった株式会社竜馬という会社でアルバイトをしたが、そのころ、真田さん(現東証1部のKLab社長)などと一緒に働いていた。当時のアルバイト仲間は50人ほどいたが、あれから20年経って25人くらいが会社を作って上場している』
木下社長は現在となっては成功者のホットスポットであるダイアルQ2で有名なリョーマ出身者です。占いのザッパラス、klab、GMOインターネットを生み出したマグマスポットです。
〇〇マフィアという言い方はあまり好きではないのですが成功者は振り返ってみると1つのコミュニティに集っているケースは頻繁に観測することが出来ます。
ホットスポットを事前に見極めることは難しいのですが特に学生の場合は、様々な場所に顔を出し修行の場を見つけるとよいでしょう。
どのように現在の事業に至ったのか
さて、沿革に戻りましょう。創業時の名前は「北海道シーオージェーピー」でも場所は大阪。どういうことだってばよ。
代表の木下を含めて5人の社員で、北海道の特産品を販売する「北海道・シーオー・ジェイピー」というネットショップを運営していました。
https://www.value-press.com/topics/team_voices/kitanotatsujin
なんと最初は特産品屋でした。
「わけあり商品」だけを売るタイムセールの企画を行ったんです。すると商品がよく売れて。2007年9月に新たに「北海道わけあり市場」というネットショップを開設することになりました。ちなみに、この時期に「北の快適工房」の前身となる「カイテキフレンドクラブ」も開設しています。
「北海道わけあり市場」はメディアにも大きく取り上げられ、順調に売上が伸びていたのですが、同時に類似したサイトもどんどん出てきていました。このとき一番収益をあげていたのが、「カイテキフレンドクラブ」で販売していた「カイテキオリゴ」という商品で。上場して組織を大きくしていくのであれば、この商品を中心として自社商品の開発・販売に注力したほうが事業として安定していくのではないかと判断し、2011年の2月に「北海道・シーオー・ジェイピー」と共に事業運営を譲渡しました。
これです!最初は幅広くやる、なんでもやる!そして儲かる場所を見つけて注力!これこそがスケールへのステップです。最初からピンポイントで行くと1/1,000の勝負をすることになります。最初はネット通販という確実に伸びる市場で広く探る、儲かるスポットを見つけて注力。このステップが重要です。
しかし神戸出身なのに何故ここまで北海道なのか・・・と調べてみると
『考えた結論は、ビジネスはリピートが必須だということ。お客様に満足を与える仕事でなければダメだと。 たどり着いたのが、カニとかメロンなど北海道の特産品を扱うネットショップ。私自身、北海道には20回ほど旅行していたし北海道が好きだったので、北海道の商品は必ず売れると感じていた』
最初はカニとメロン、まさに北海道特産品だったのですね笑。
健康食品に注力を開始し、その後もヒット商品が続きます。
競争が激しく生存が難しい健康食品・化粧品業界、どのようにロングランヒット商品が生み出されているのでしょうか。
社内で上がった新商品のアイデアを精査して、テストマーケティングを行います。テストマーケティングの結果、売れないと判断されたものを除いて、商品開発をスタートします。100商品のうち、20~40商品というところです。たとえば、「目の下のくまを改善する商品が売れる」というテストマーケティングの結果が出たとします。ではどんなものを作ろうか、美容液がいいのか、クリームがいいのか、成分や容器はどうするか。開発の過程で、これらを具体的に詰めて商品の形にしていきます。その後、品質テストやモニター検証を経て、すべてをクリアしたものだけが発売されます。テストマーケティングにかけたアイデアのうち、実際に商品となって発売されるのは1〜10%程度でしょうか
北の達人というと巧みなウェブマーケティングに注目が集まりがちではあるのですが商品に対する並々ならぬこだわりが社長のコメント以外にも多数の箇所で発見することが出来ます。最近の大ヒット商品となった「刺す化粧品」シリーズもこのような厳しいプロセスから生み出されています。
沿革に戻ってみてみると創業後、カイテキオリゴ販売開始まで4年、その翌年に現在の原型となる北の快適工房が開設されています。創業後10年で北海道しーおーじぇいぴーを売却し健康・美容に注力、その後も次々とオリジナルヒット商品を生み出して成長していきます。
ピンチはチャンス!
興味深い記述がありました。
ネット通販が普及してきたので、私の会社のサイトとそっくりのサイトも出てきた。そのころ、北海道の特産品を扱う会社が500社も出てきて市場競合が激しくなり売り上げは伸びなくなってしまった
実は順調に成長していた北海道特産品事業は早い段階で成熟してしまいます。ECは比較的参入障壁が低いため誰かが儲かっているとなると新規参入が続き儲からない市場に変わってしまうのです。
マイケル・ポーターも言っていましたね、「新規参入の驚異」を把握しなさい!
魅力的な利益率があり低参入障壁なのであればそのパラダイスは長くは持続しません。
資金を蓄え培った知見も含めたアセットを使い別の市場への展開を考えながら事業を運営しなさい!
次に木下社長は「横にある」市場へ飛びます。
『次の事業展開をしなければならないと考えて『北の快適工房』という北海道の原料を使った健康食品分野に参入した。もう一つ取り組んだのが『わけありグルメ』。これは、カニでも足のかけたものや規格外品の農畜産物を扱うネット通販で、これはマスコミにとても受けた。3年くらい前にはすべての情報テレビ番組に出たほど。年間で30回はテレビに出ていた。ガイアの夜明けにも特集番組で出演した。
当時はリーマンショツクで賢い消費の一つとして紹介が相次いだが、これも一斉にみんなが真似をするようになって一挙に競合が激しくなった』
通常の特産品ではなくわけありに注目しました。ただしこれもECの知見を手に入れた企業にとっては参入障壁は極めて低く、大きく目立ってしまったため競争が激しくなってしまいます。BtoCの事業でありTV露出は大きな武器であるため目立つべきではあるのですが、大衆メディアに露出することで事業上のメリットが低いと思われる業態の経営者も露出し自社の戦略を語っているケースがあります。
優位性は秘匿しなさい!秘伝のタレは隠しなさい!
『アイデア勝負のネットビジネスは長続きしないと実感した。この商品が気に入った、また買いたいというオンリーワンの自社商品がないと、ブームは一過性で終わることに改めて気づいた。ブームに飛びつく人は次のブームに流れていく。ブームに流れるようなアイデアや商品では存続できないと思った。現在の『北の快適工房』で扱っているオリゴ糖やポリフェノール、砂糖など道産原料を使った健康食品や化粧品はブームと関係がない。ブームと関係のないオリジナル商品で目立つことは一切せずに骨太に事業を進めていこうと決めた』
そしてついに現在の原型となる自社オリジナル商品のネット販売にたどり着きます。こう見るとピンチはチャンスと言えます。今の事業が何故あったのか、もしかしたら特産品に新規参入が続かなければ存在しなかったかも知れませんね(構造上これは起きませんが)。
自社が追い詰められるということは現在のやり方で走ると危ないというシグナルです。ここで根性論で「頑張れば競合を倒せる」と走るのは得策ではありません。
マーケットから現れる危険信号を敏感に察知し戦略に反映しなさい!
これはKPIに結果が現れる前から肌で感じることが出来ます。不確実性の高い中でも迅速に決断する、これこそが社長の仕事と言えるでしょう。
木下社長は以下のポリシーをこの段階で確立し始めたのではないでしょうか
・安定市場で戦う
・良質な商品
・ネットを通じた直接販売
・良質な原料活用(調達ネットワークは参入障壁を構築しうる)
ところでオリゴ糖は安定した市場か?ここでおなじみGoogleTrendをみてみましょう。
なんと安定した市場でしょう!!
上のポリシー全てをやりきる。これは簡単なことではありません。
「良質な商品を作る」
これは誰でも言うでしょうが、多くの試作品をボツとし研究開発費を投下し開発者となった社員が残念がるという苦難があっても「良質、最高の商品を作りきる」、そのような姿勢がブランド、つまり消費者からの信頼を獲得するに至っていると武田は感じます。
北の達人から学びなさい!
それでは次回も北の達人分析を続けてまいります!
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